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人気順 5 users 50 users 100 users 500 users 1000 usersPress Enter■: ハローサマー、グッドバイ(1) ネコの手
「お名前と会社名をどうぞ」 ぼくの目をまっすぐ見つめながら、静かに言ったのはJSPKF第18特殊作戦群第1分隊長、谷少尉だった。右目の上に大きな傷跡が残っているその精悍な顔には、これまでくぐり抜けてきた幾多の経験から生まれた堅牢な尊厳が刻まれていた。 「鳴海シロウです」ぼくは答えた。「ヤマブキ・ロジスティックサービスに勤務しています」 「お仕事は何を?」 「主に近距離の配送業務です。あとシステム開... 続きを読む
Press Enter■: 罪と罰(36) チャタムハウス・ルール
私たちが待ち合わせ場所に指定されたサイゼリヤに着いたとき、その男性は先に到着していた。本名は秘密なのでエヌ氏と呼ぶことにする。エヌ氏の前には、すでに4分の1を残すばかりになったビールのジョッキが置かれていたが、私たちが店の入り口から、窓際の席に移動する短い時間で、その残り半分がなくなってしまった。冬の日が短いと言っても、まだ15:00を過ぎたばかりだ。おまけに年明けから続く寒波の影響で外気温は5度... 続きを読む
Press Enter■: 鼠と竜のゲーム(1) 家宅捜索
あなたはもう結末を知っている――T市立図書館システムにまつわる拙速な逮捕劇、そしてクロラ氏が最終的に名誉を回復したいきさつを。だが、あなたは発端――この事件の遠因となった1人の男の不可解な暗躍の理由を知らない。それは、彼が棲息する企業が、企業倫理を軽視し、技術よりも利益を追求した結果によるものだ。ましてその裏話――あるベンチャー企業の生き残りを賭けた物語となれば、なおさら知りようもない。 倉敷タカ... 続きを読む
Press Enter■: 冷たい方程式(28) ぼくたちの失敗
渕上マネージャは、その隣に立つ磯貝課長と、無表情のまま何事か話していた。あたしたちを見ると、2人は同時に口をつぐんだ。すでにデモは終了したようで、会議室には人気がない。 渕上マネージャの姿を見た途端、亀井くんの顔に怒りとも後悔とも取れる複雑な表情が浮かんだ。あたしは、いつかのような事態の勃発を怖れて、亀井くんの前に一歩進み出て、二人の視線を遮断した。ところが、渕上マネージャの方が見ていたのは、なぜ... 続きを読む
Press Enter■: 冷たい方程式(24) 冷たい方程式
『あのですね、日比野さん』VoIPで届けられる東海林さんの声は、うんざりしているのを隠そうともしていなかった。『それだと自己結合になるじゃないですか。ご存じだと思いますが、自己結合というのはコストが高いんですよ。せっかくWindow関数あるんだから、そっちを使いましょうよ』 「そうかもしれませんけど」対するあたしの反撃は、やや歯切れが悪い。「overとか使ったことないんですよ。使い慣れてない関数は... 続きを読む
Press Enter■: 冷たい方程式(22) 不都合な真実
12月6日、木曜日、午前10時。 渕上マネージャが、突然、緊急ミーティングを招集した。勤怠管理システムリプレイスプロジェクトに関わる全員が参加を求められた。 「急になんですかね?」会議室に向かう途中、亀井くんが聞いてきた。 「さあねえ」あたしは首を傾げて、隣を歩いていた磯貝課長を見た。「課長、ご存じですか?」 「さあねえ」と課長はあたしと同じ言葉で答えた。「本社から何か言われたのかなあ」 そういえ... 続きを読む
Press Enter■: 冷たい方程式(1) 技術力は勘定に入れません
電話が鳴った。 あたしはワンコールで受話器を取り上げた。別に待ちかねていたわけではなく、朝から続くしつこい頭痛に干渉する電子音を一刻も早く断ち切りたかっただけだ。 「はい、日比野です」 『受付です。ホライゾンシステムサービス株式会社様がいらっしゃいました』 「すぐ行きます」 あたしは受話器を置いて時計を見た。14:12。約束の時間より約10分の遅刻だ。 ――まあ、遠いから仕方ないか 腰を上げたとた... 続きを読む
Press Enter■: 人形つかい(終) エピローグ
2月1日午前9時、「承認くん」は無事に本番稼働した。 橋本さんが電話してきたトラブルはたいした問題ではなかった。ログに出ていた、 java.lang.OutOfMemoryError: Java heap space のメッセージを見ただけで原因は明らかだった。APサーバのJVMパラメータを確認すると、案の定、-Xmx128m になっていた。これはテスト環境用のパラメータだ。-Xmx2048m に... 続きを読む
Press Enter■: 人形つかい(5) システムエンジニアとSQL
誰が誰に頭を下げ、誰が譲歩し、誰が叱責されたのか、それはわからない。数日後に戻ってきた設計書は大幅に加筆訂正されていて、「ローカルフォルダのExcelファイルを開く」という例の仕様は、「サーバ側でテンプレートからExcelファイルを生成し、ダウンロードする」と変わっていた。 この変更について橋本さんは何も言わなかったが、ぼくにはかえってそれが良くない兆候のように思えてならなかった。橋本さんが作り笑... 続きを読む